コラム

2023.8.29

睡眠時無呼吸症候群とは? 症状と影響

睡眠時無呼吸症候群とは?

睡眠時無呼吸症候群とは?

睡眠時無呼吸症候群とは、その名の通り、「睡眠」中に「無呼吸」状態が繰り返され、睡眠が妨げられる病気です。
英語名であるSleep Apnea Syndromeの頭文字をとって、「SAS(サス)」とも言われます。最新の睡眠障害の国際分類では、正式な疾患名は閉塞性睡眠時無呼吸症(OSA)になりましたが、わが国ではなじみの深いSASがいまでも使われています。
近年、居眠り運転による交通事故発生などの報道でこの睡眠時無呼吸症候群を耳にしたことがある方も多いかもしれません。かつては、睡眠時の無呼吸は「うるさいいびき」程度にしか考えられていませんでしたが、近年、循環器系の疾患をはじめとした様々な疾患との関係が明らかになるにつれ、社会的にも非常に重要な病態と認知されるようになりました。

寝ている間の無呼吸は自分自身で気付くことが難しいため、検査や治療を受けていない潜在患者も多いと言われており、現在、日本においても250万人以上の潜在患者がいると推計されています。
この病気が深刻なのは、睡眠中の無呼吸によって心臓や脳・血管に負担をかけ、睡眠の質が悪化し、起きているときの活動に様々な影響を及ぼすからです。重症の場合、高血圧、心筋梗塞、心不全、心房細動、脳梗塞などになりやすくなり、糖尿病や脂肪肝の悪化要因になるともいわれています。
また、呼吸障害により正常な睡眠が妨げられるため、交通事故を引き起こす病的な眠気の原因や、仕事の効率の低下など生産性の低下をきたす原因となります。

SASの医学的な定義と重症度

上述の通り、睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中の気流の停止状態(無呼吸)や、喉の空気の流れが弱くなって動脈血酸素飽和度(SpO2)が3~4%以上低下した状態、もしくは覚醒を伴う状態(低呼吸)、が1時間に何回も起こる状態です。古典的な睡眠時無呼吸症候群の定義(1976年スタンフォード大学ギルミノー教授)は「睡眠児無呼吸症候(SAS):7時間以上の睡眠中に、少なくとも 30回(1時間に5回以上)の無呼吸が、REM睡眠だけではなく、NREM睡眠中にも認められる」とされ、この睡眠1時間あたりの「無呼吸」に加え「低呼吸」との合計回数を無呼吸低呼吸指数(AHI:Apnea Hypopnea Index)と呼び、重症度を分類する際に使用されます。
医学的には、AHIが5~15回が軽症、15~30回が中等症、30回以上が重症と分類されます。日本の保険診療の仕組みでは、AHI≦20で保険適用となるため、医学的な診断と必ずしも一致していない現状もあります。

SASの重症度分類

軽症 5 ≦ AHI <15
中等症 15 ≦ AHI < 30
重症 30 ≦ AHI

睡眠時無呼吸症候群の種類

睡眠中に呼吸が止まってしまうメカニズムの違いによって、睡眠時無呼吸症候群は大きく2種類に分類されます。

閉塞性睡眠時無呼吸タイプ(OSA)

上気道に空気が通るスペースがなくなって(=閉塞)、鼻・口の気流が停止するタイプを「閉塞型(OSA:Obstructive Sleep Apnea)と呼びます。
SAS患者全体のほとんどがこのOSAタイプに該当するといわれています。この場合、呼吸運動そのものは保たれているため、無呼吸中でも胸壁と腹壁の運動が認められる一方で、それらの動きが互いに逆になる点が特徴的です。

上気道のスペースが狭くなる要因としては、体重増加に伴う首・喉等の上気道軟部周辺への脂肪沈着や扁桃肥大、舌根(舌の付け根)・口蓋垂(のどちんこ)・軟口蓋(口腔上壁後方の軟らかい部分)などによる喉・上気道の狭窄が挙げられます。特に、仰向けで寝ている場合、重力の影響もあって、睡眠時に全身がリラックスすることにより舌が下方へ落ち込みやすく(舌根沈下)、上気道の狭窄が発生しやすくなります。

骨格と解剖学的な組織量の関係も重要です。元々骨格が大きければ、多少の脂肪の蓄積(組織量の増加)による上気道の狭窄の可能性は低いですが、元々骨格が小さい場合、上気道のスペースが圧迫されて狭くなりやすく閉塞が発生しやすい状況になります。特に、日本を含む東アジアの人は欧米人に比較し顎が小さく、気道が狭い人が元々多いと言われており、肥満がなくともOSAが生じやすいと考えられています。 いびきは狭くなった気道を空気が通過した時に発する音で、気道が狭くなっていることを教えてくれる重要なサインでもあります。肥満でなくても、いびきをよくかく方は「閉塞性」の無呼吸症候群を疑ってみる必要があります。

中枢性睡眠時無呼吸症候群(CSAS)

脳から呼吸指令が出なくなる呼吸中枢の機能異常によって発生し、呼吸運動そのものが停止するタイプを「中枢性(CSAS:Central Sleep Apnea syndrome)と呼びます。睡眠時無呼吸症候群の中でもこのタイプは全体の数%程度です。肺や胸郭、呼吸筋、末梢神経には異常がないのに、呼吸指令が出ないことにより無呼吸が生じます。
OSAの場合は、気道が狭くなって呼吸がしにくくなることが原因であり、呼吸努力が見られますが、CSASの場合は呼吸を指示する脳からの指令そのものが消失するため、呼吸努力がみられません。つまり、OSAの場合はいびきが発生しますが、純粋なCSASの場合は基本的にはいびきをかきません。

CSASに陥るメカニズムは様々であり、完全に解明されていない部分もありますが、心不全などの心機能低下や脳卒中の患者に比較的多く認められる無呼吸のパターンであって、多くの場合にそのような心血管系の病気の結果として出現すると考えられています。特に、チェーン・ストークス呼吸と呼ばれる呼吸パターン(無呼吸の後に呼吸が再開する際、徐々に大きく速くなった後、今度は徐々に弱くなり最終的に再び無呼吸に至るという呼吸パターン)が特徴的ですが、これは心不全の患者にしばしば見られる呼吸パターンです。

症状

睡眠時無呼吸症候群(SAS)の代表的な症状については以下のようなものがあります。症状については個人差もありますので、より詳しくチェックするためには「簡易SASチェック」をご利用いただき、少しでも気になった方はすぐにクリニックにご相談ください。

睡眠中の主な症状

起床時の主な症状

  • ● 口が渇いている
  • ● 頭痛、頭がズキズキする
  • ● 熟睡感がない
  • ● すっきり起きられない
  • ● 身体が重いと感じる

日中に見られる主な症状

傾向

日本人は要注意?SASになりやすい人の特徴

閉塞性睡眠時無呼吸症(OSA)は、太った男性がかかる病気というイメージもあるかもしれません。しかし、それは欧米における病態であり、日本人をはじめとした東アジアの人々の場合は、痩せていても、若くても、女性でもかかる病気です。私たち日本人にとって、閉塞性睡眠時無呼吸症(OSA)は非常に身近な疾患であることを自覚しなければいけません。

身体的な特徴

OSAの紹介でも述べた通り、顔や首周辺の骨格や身体的な特徴が、無呼吸の発生と深く関係しています。特にOSAになりやすい形体的特徴としては、①首が短いまたは太い、②首まわりに脂肪がついている、③あごが小さい、④歯並びが悪い、⑤舌や舌の付け根が大きい、などです。特に③のあごの小ささについては、私たち日本人に特有のものであり、痩せていても、年齢が若くても罹患する日本人のOSAの病態を特徴づけるものとなっています。

性別

女性に比べて男性がかかりやすい病気です。女性と比較すると、男性の肥満は上半身に脂肪がつきやすいのが特徴で、特に頸部への脂肪の分布割合が女性よりも男性で高くなる傾向があり、このような男性特有の体型がOSAの罹患率にも影響していると考えられます。ただし、上記の通り、OSAは女性でもかかる病気であり、特に更年期以降の女性は、閉経によってホルモンバランスが変化することで発症率が上昇すると指摘されており、注意が必要です。

年齢

OSAは、上述の通り、年齢に関わらず身体的特徴があればリスクが高まる病気ですが、生活習慣病とも密接な関係があり、30-60代は特に要注意です。また、年齢とともに喉や首周辺の筋力が衰え、上気道周辺の狭窄が発生しやすくなると、OSAの発症リスクも高まります。昔に比べて太った・体形が変わった、という方は、特に首や喉周辺の脂肪が増えている可能性もあり、注意が必要です。

OSAは症状があっても、本人に自覚がないことが多く、家族や友人に指摘されて初めて認識することも多い病気です。自覚がないために、自分の健康に自信がある人ほど受診や検査を行わず、治療が遅れてしまうことも多いため、少しでも気になった方は、まずはクリニックの受診をお薦めします。

様々な影響

SASが招く交通事故

2000年代前半頃から、SASによって生じた日中の眠気が引き起こす交通事故がマスコミで取り上げられ、SASが招く社会への影響の大きさは徐々に理解されつつあります。
ある研究によれば、SAS患者の交通事故発生率は、健常者の7倍となっており、有意な差が見られます。また、SASの重症度が上昇するにつれて交通事故の発生率が上昇することも明らかになっています。

【出典】
L.J. Findley, et at., “Automobile accidents involving patients with obstructive sleep apnea”, Am. Rev. Respir. Dis. 1988, 138(2):337-40
L.J. Findley, et al., “Driving simulator performance in patients with sleep apnea”, Am. Rev. Respir. Dis. 1989, 40(2):529-30

合併症の危険

SASは高血圧症、脳卒中、狭心症、心筋梗塞など循環器病と密接な関係があることも、長年の研究によって明らかになってきています。例えば、米国で18年間にわたってSASの経過を調べた研究によると、AHIが5以上の睡眠呼吸障害がある場合には、循環器病による死亡リスクが5.2倍に上昇することが明らかになっています。
睡眠中の無呼吸によって血液中の酸素濃度が下がり「低酸素血症」が生じ、心拍数や血圧が上昇します。血液中の酸素濃度を表す「動脈血酸素飽和度」(SpO2)は、正常な場合には96%以上なのに対して、無呼吸が発生している場合には90%以下に低下します。
個々の疾患によっても異なりますが、睡眠時無呼吸症候群によってもたらされる交感神経活動の亢進(こうしん)(自律神経の緊張状態)が、様々な循環器系疾患を引き起こす要因になっていることが指摘されています。このような低酸素状態が継続することは、まさに睡眠中に運動をしているのと同じような負荷が心臓にかかっているのと同じ状態であり、心拍数を上げて体に十分な酸素を供給しようとする結果、血圧も上昇します。この状態が何年も続くと心臓への大きな負担が蓄積され、交感神経の緊張状態が続き、循環器系疾患の発症リスクも高まることになるのです。

各生活習慣病疾患とSAS合併の割合

【出典】
薬剤抵抗性高血圧:A.G. Logan, et al., “High prevalence of unrecognized sleep apnoea in drug-resistant hypertension”, J. Hypertension 2001, 19(12):2271-7
心不全:S. Javaheri, et al., “Sleep apnea in 81 ambulatory male patients with stable heart failure. Types and their prevalences, consequences, and presentations”, Circulation. 1998, 97(21):2154-9
心房細動:A.S. Gami, “Association of atrial fibrillation and obstructive sleep apnea”, Circulation. 2004, 110(4):364-7
高血圧:C. Sjostrom, et al., “Prevalence of sleep apnoea and snoring in hypertensive men: A population based study”, Thorax 2002, 57:602-607
冠動脈疾患:H. Schäfer, et al., “Obstructive sleep apnea as a risk marker in coronary artery disease”, Cardiology. 1999, 92(2):79-84
糖尿病:A. Elmasry, et al., “Sleep-disordered breathing and glucose metabolism in hypertensive men: a population-based study”, J. Intern. Med. 2001, 249(2):153-61

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